第154回:静寂は闇の調べ(2003/06/12)


切っ掛けはEVELIKE様と穂積静枝さん(人妻)で意気投合したことですが、
折角なんで『静寂は闇の調べ』というゲームのレビューをしてみたいと思います。
気になった方は必見!かもしれません。
下手くそなレビューですけど、宜しければ最後まで御付き合いください。

まず最初にストーリーを紹介しましょう。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

世界中を焦土と化した、未曾有の大戦が終わってから、数年後の春。
穂積 尚治朗は、生まれ故郷へ向かう汽車に乗っていた。

車窓の外に広がる乳白色で構成された世界をしばし見つめた後、
彼は旅行鞄を開け、封筒を取り出した。
手紙には、こう記されている。

『突然のお手紙、失礼致します。
 御存知無いかも知れませんが、私は貴殿の実の父親である
 穂積 善造【ほづみ ぜんぞう】と申します。
 当方、重病により余命幾ばくも有りません。
 命がある内に、私の財産を貴殿に譲り渡したく思います───』

初めて聞かされた事実。
顔を見た事すら無い実父。
心の奥底に眠る、朧な記憶。
様々な思いを抱きながら、尚治朗は生まれ故郷の洋館へ向かう。

錆びかけた鉄門を入った所で、長い黒髪を風になびかせながら、
一人の少女が声を掛けてきた。

「…尚治朗兄様」

彼女は尚治朗を、そう呼んだ。
不思議そうな表情をする尚治朗を見下ろし、彼女は失望の表情を浮かべる。
「あたしは、兄様の事忘れた事なんて無かったのに…」と。

しばらく穂積邸に滞在する事になった主人公の身の回りで、立て続けに怪事件が起こり始める。
ある時は「ここから出て行け」という血塗られた脅迫文が。
またある時は、怪我を負わせる事を目的とした卑劣な罠が。
尚治朗の命を狙う、悪意に満ちた凶弾が。

犯人の目的は、一体何なのか。
そして、尚治朗が穂積邸に招かれた真の理由とは?

今、物語が幕を開ける───

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

こんな内容です。

そして、簡単ですが人物紹介もしておきます。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

穂積尚治朗 − 主人公。この度遺産相続の件で穂積邸に呼び出された元軍人。
穂積一草 − 主人公の従妹。主人公に対しては皮肉屋だが実は夢見がちな女らしさも。
門脇依子 − 一草のピアノの家庭教師。穏やかで物静かで知的だが、やや天然ボケ。
信太倫香 − 穂積家の賄い婦。押しが強い性格で、姉御肌。明るい性格。
有村眞穂 − 穂積家の使用人。素直で明るく、前向きな性格。だが、そそっかしくて失敗も多い。
有村志穂 − 早朝と夜中だけ見かける眞穂とそっくりな女の子。実は本作のメインヒロイン。
穂積静枝 − 穂積善造の後妻。上品だがどこか暗い影を漂わせる大人の女性。
穂積善造 − 尚治朗の実の父親。頑固で朴訥な性格。無口。病に冒され余命幾許もない。
包帯の男 − 穂積邸に向かう時に出会う包帯で全身覆った男。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

となっております。
人物の詳細はRemainのホームページを御覧ください。
このページの一番下にリンクはってあります。



で、最初に私の結論から申し上げておきますと・・・

『もうちょっと気を使えば名作にもなりえた佳作』

これが『静寂は闇の調べ』に対する評価です。
正直なところ、作品そのものは嫌いではありません。
独特の戦後日本の華族的な雰囲気にはきっちり呑まれましたので。
まあ、私がこういった大正〜昭和〜戦後の雰囲気が好きというのもあります。


まず、頑張れば名作にもなりえただろう理由を挙げておきます。

@人物設定がしっかりしている
 人物紹介を見る限り、個々の性格付けはしっかりしているし
 プレイヤーが期待に想像を膨らませることができるレベルにはなっていると思う
 また、各キャラクターの過去・秘密もきっちり設定してあり掴みは持っている

A基本を抑えたストーリー
 流行である「猟奇性を持ったサスペンス」を感じさせる内容である
 この発言は決して嫌味ではない(笑)

B時代背景をきっちり反映させている
 オープニングムービーや音楽、背景画や人物・人物の過去・ストーリーから
 「戦後日本」の雰囲気は十分に感じる事ができる
 実際に事件の真相もこの時代背景を反映させたものであり興味深い
 この時代背景が好きな人を惹き込む魅力は十分に持っている

C各々のパーツのレベルは高め
 絵や音楽と言った個々のパーツのレベルは高い方かと
 絵は綺麗な方だと思うし、キャラデザも上手い方だと思う
 立ち絵もそれなりにバリエーションあるし
 まあ、この辺は好みもあるが

大きく分けるとこんな感じです。
ストーリーという側面キャラ燃えという側面で見ても、
ベースとして最低限必要な要素は結構揃っていると思います。

注意して頂きたいのは、飽くまで名作になるベースを持っていたということ。
これがあるからといって必ずしも名作への道が確約されている訳ではありません。
要は「良い食材を用意できました」という状態です。
それを「調理」する必要があり、それに失敗していると言いたいのです。

調理に失敗と大きく出た原因は主に以下の通りです。

なお、以下青字の箇所
「ここをもっと意識していたら名作になったんじゃないか」
と私が思う部分です。
世間一般論が青字になっていたり、作品の問題点が青字になっていたりと様々です。
別に「改善すべきところ」を青字にしている訳ではありませんので御了承を。
まあ、私が思っているだけなので実際は違うと思いますけど。

<物語的な原因>

@魅力的な設定が生かされていない
 魅力的なストーリーや人物設定を上手く昇華(消化)しきれてない
 それ故、ストーリーは単調でキャラクターには動きが感じられない

A全体的にテンポが悪い
 他愛もない会話で変に引き延ばされたり、かと言って唐突な場面展開があったり
 しかもその差がキャラによって激しい

Bサスペンスなのに緊張感が薄い・持続しない
 サスペンス物に重要な「緊張感」が欠けている
 盛り上がりに欠けたまま何となく終わってしまう

C選択肢の意図が伝わらない
 選択肢の結末が予想できなくて考え込んでしまう
 しかも、選んでみると更に予想できない結果
 好感度が上がりそうな選択肢でも下がることが多かったり
 これはテンポの悪さを誘発している要因でもある

本作品は基本的に攻略できるキャラの順番が決まっており、
順番通りに全てのストーリーをこなすことで真相が分かる今流行りの方式です。
このような形式のゲームは大概、
『一キャラクリアするたび「物語の核心」へ迫るのと同時に「新たな謎」を生み出し、
クライマックスで全てが語られて謎が解明して物語の全貌が分かる』

という流れになります。

ですが、本作品では上記@〜Cの理由が相まって消化不良な結果に終わっています。
特に「謎を残す」という部分が上手く表現できていません。
「物語の核心に迫る」部分もゲーム内での表現方法は間違っていないと思いますが、
核心部分を徐々に明らかにしていくように上手く割り振れていません。
実際、二人目に狙った一草の話で物語の核心がすぐに分かってしまいましたし。
要するに、核心部分が明らかになっていく過程の作り込みが甘く、
プレイヤー側に謎を残させることに失敗している
んですね。
サスペンスと名打つ以上、一番重要と思われる「謎」の生成に失敗してるのは致命的です。

また、サスペンスとしてみるとBで挙げたように緊張感が欠如しているのは問題です。
この大きな原因は、
登場人物の全員が死の恐怖に陥るのではなく
飽くまで主人公のみが死の恐怖に陥る状態であること
かと。
偏に、主人公を囲むキャラが持つ「死」に対する意識が薄過ぎるのです。
両立させたいならむしろ登場キャラ全員が死の恐怖に陥るようにすべきだったと思います。
まわりのキャラがあまりにも平和過ぎるため、
命を狙われているくせに主人公の生活態度からも緊張感が伺えないのです。
結局、サスペンスと各キャラ毎の美しいエピソードと両立させようとしたのが失敗かと。
もちろん両立できるようなシナリオを書ければ問題ないのですがね。


こうなると、キャラ別の美しいエピソードに期待したいところですが、
これもまた中途半端な感じが否めません。
各々の人物設定が物語全般に生かされていないのです。

例えば、※以下ちょっと気を使って反転
静枝さんと使用人の有村眞穂が実は親子だった、という設定があります。
何故親子離れ離れにならなければならなかったのかという過去、
そして実の娘を前にして「母」を名乗れない静枝さんの苦悩、
それに対する主人公の配慮、そして親子の結末、
個々のパーツで見ると非常に面白く魅力的なのですが、
それを一つのエピソードとして通してみると物足りなさを感じてしまうのです。
パーツの繋ぎが甘いんですよ。
繋ぎの役目を果たすであろう主人公の感情があまり語られず、展開が急に感じられるのです。
特にこのエピソードが語られる静枝さんのシナリオは選択肢皆無の単調な展開をするので尚更。
最後に有村眞穂が静枝さんの前で読んだ「近くて遠いお母さんへの手紙」は
個人的に大好きなんですけど、そこに至るまでの伏線の張り方が甘いのが悔やまれます。

更に、この物語の核心部分に持ってきているテーマは非常に興味深いんです。
当時忌み嫌われていた天刑病を患ってしまった人物とそれを囲む人々の苦悩を描いています。
その苦悩を効果的に各エピソードに盛り込むことができれば大いに盛り上がったと思うのですが、
結局のところ作中で苦悩に苛まれている人物は患った本人を含めて4人しかいません。
(しかも一人はサブキャラクターの穂積善造)
サスペンス的な要素が深く絡んでくるキャラも上記の4人であり、
他のキャラは作品テーマがイマイチ分からない状態で話が展開されます。
物語の持つテーマが面白かっただけに、この中途半端さが残念でなりません。
これが「謎」だ!って言われればそれまでなんですが・・・私は納得しませんけどね。
だって、パッケージの表紙を堂々と飾っている穂積一草が殆どテーマに関わりないんだもんなあ・・・。

また、明らかに蔑ろにされていると思われるキャラがいることも問題です。
丁寧に書かれているキャラとの差が激しすぎます。
特に家庭教師・門脇依子の話は「なんかいきなり終了していました」状態でした。
言うなれば、途中で打ち切られたアニメ・マンガのような感じです。

あと、ターゲットキャラを好きになるタイミングも唐突で戸惑います。
主人公の気持ちの変化を匂わせるイヴェントや主人公の感情の起伏表現もあまりなく、
「えっ!?もう好きになっちゃったの?」という感じになります。
女の子に「好き」と告白されて好きでもないのに「俺も好きだった」と返してしまうような。
もしかするとゲームに出て来ない部分で何かあったのかもしれませんけどそれじゃあ意味ないです。
魅力的な人物設定もこのような唐突な展開で台無しにしています。
例えば、静枝さんが自分を好きになる要因もしっかり組み立てられていません。
「背徳的な恋」という背景の中にどんな想いが隠れているのか、
その辺を順序立てて上手く表現できれば非常に面白いのに、
詳しく語られる事もなくあまりにも唐突な仰天エンディングを迎えてしまいました。


印象としては、ストーリー全体を最初に考えたのではなく、
各キャラの設定やエピソードを個別考えて無理矢理ストーリーにくっつけました
、という感じです。
極端な話、エピソードだけ先に考え付いていたような。
ただ、これでは家を建てるのに設計図を描かないで個々のパーツを組み立てているのと同じかと。

恋愛要素のみのゲームならそれでもまだいいと思うんです。
ですが、ストーリーの収束性を大きく求められるサスペンスというジャンルにした以上
まずはストーリーという大きな幹がないと破綻する可能性が高いということを忘れてはいけません。
(勿論、成り立たせてしまう凄腕のシナリオライターもいるとは思いますが、恐らく稀です)

ストーリーと恋愛(燃え)要素を上手く融合させようとして失敗した。
そしてその原因は作品の組み立て方にあった。

そんなところかと思います。


<システム的な原因>

Dしょうもない粗が目立つ
 小学生レベルの誤字脱字やスクリプトの打ち込みミス
 見れば&読めば誰でも分かりそうな矛盾点が結構残っている

本当はダメなんですけど折角なので少し紹介しておきましょう。





・・・なんか、間違い探しみたいですね。

他にも、早朝土だけの花壇に種を蒔いたのに昼間には花が咲いている花壇の背景画が表示され、
その後にまた土だけの花壇の背景画が表示されたり、そんな表示ミスもありました。


<常識的な原因>

E嘘が多すぎ
 ユーザからお金を取る立場である以上、ある程度の責任は持つべき

この私が見てもいい加減なところが多いんですよ。
それが魅力的な設定を台無しにしてて残念無念。

例えば、オープニングムービーがかなりいい雰囲気を出しており、
各キャラごと以下のような言葉が表示されます。

 穂積一草:そう、人の命って軽いのね
 門脇依子:戦争を正当化できる人がどこにいるんですか?
 信太倫香:消えてしまいそうなほど、小さな存在なんです
 穂積静枝:心の中に神と悪魔を宿しています
 有村眞穂:あなたは・・・不幸を招く疫病神です

かなり意味深な言葉が揃っており、ムービーを観た者の期待を煽るには十分なほどですが、
実際、上記の言葉が効果的だったエピソードは皆無に等しかったり。
静枝さんの言葉なんて気になって仕方がないほど魅力的なのですが、
コンプリートしてもその言葉の意味は分かりませんでした。

これ、公式HPでダウンロードできた内容だと思うのですが、
購入を検討している人の期待を見事裏切っちゃう可能性が大ですよ。

あと、パッケージの裏に載っているグラフィックが本編に出てきません。
なかなか分かりにくい載せ方をしてありますが、私は見逃しません。

また、公式HPで紹介しているゲームシステムが幾つか装備されていません。
・バックグラウンドでの音声再生機能
・CG鑑賞モードで各キャラクターのコメントを聞く事が出来る機能
・エンディング鑑賞モード
これらは何処を探してもありませんので御注意を。

そもそも「インモラル・サスペンス」のジャンルすら間違っています。
私のプレイ方法・解釈が間違っているのかもしれませんが、
全然インモラルじゃありませんし、サスペンスとしても中途半端です。
CGモード見るとコンプリートしているので、少なからず見忘れたってことはないと思いますが。

多少の事情があったとは言え、ちょっと多い気がします。
購入の判断材料になる要素くらい責任を持って頂きたいところです。


ここまでかなり酷いことを述べてきましたが、個人的に好きな作品ではあります。
設定を上手く昇華(消化)できていれば名作にもなり得たストーリーでありテーマであると思います。
もう少し上手く作ってくれれば、という残念さはありますが、
作品の雰囲気は心地良いくらい自分に馴染むんですよね。
だからこそ、気になる部分が多いのかもしれません。

本作品の購入金額の目安としては・・・

・大正・昭和初期の華族の世界観・雰囲気に惹かれる −3000円台
・キャラクターデザインが好み −3000円台
・サスペンスという言葉に惹かれる −2000円台
・インモラルという言葉に惹かれる −1000円台
・眼鏡娘が大好き −1000円未満

といったところでしょうか。
正直、4000円台ではおつりが返ってこないでしょう。
ただし世界観とキャラデザ両方に惹かれるなら4000円台でも許せる人はいるかもしれません。
私が「買いだ!」と薦められるのは世界観が好きな人しかいないですね。
キャラデザだけで薦めるにはちょっとパンチが弱いかなあ、と。
まあ、キャラデザは好みですからねえ。
尚、私は新品で買いました。

最後に、静枝さん情報を。
残念ながら髪は下ろしませんでした。
とりあえず自分を保つことができて良かったです。
と同時に、残念無念。

参考:Remainホームページ
http://www.remainsoft.com/img/remain_bn.jpg">

(潰れたようです)

<BGM>
Maia Worzen Theme (古代祐三) 
[ DragonSlayer4 / 日本ファルコム ]