第185回:終わりは始まり(2004/01/19)


世の中、至るところにドラマが待っているものです。
道端に捨てられたゴミにしか見えないコーヒーの缶も、
遠距離恋愛になってしまうカップルが遠く離れ離れになる前に
身体を温めようと一緒に飲んだものかもしれません。
道端に山のように捨てられているタバコの吸殻も、
ヘヴィスモーカーの女性が恋人に待たされてイライラした表れかもしれません。
しかもそれは誰よりも女性らしく思わず護りたくなる探偵事務所の所長だったり。
その前にゴミはゴミ箱に吸殻は吸殻入れに捨てろという話ではありますが。

そんなドラマが生まれる可能性を無限大に秘めた世の中にあって、
我々に数々のドラマを生み出してくれた場所が一つ無くなってしまいました。

その場所は「喫茶東洋」
カレーを食べながらインターネットができる『ブロードバンドカレー』を売りに
永きに渡って秋葉原に君臨したカレー屋です。
でも、インターネットはできるけど携帯の電波は届きません。
そんな中途半端なIT化も一つの魅力だったかな、と。

カレーをウリにしているとは言え、とりたててカレーが美味しい訳ではありません(失礼)
人が集まる週末の秋葉原にあってゆったりくつろぐスペースを確保できる
特に集団で行動する者にとってはオアシスのような場所、という意味で貴重な存在でした。
そのオマケとしてお腹が空いていればカレーが付くという感じですか。
長居しても追い出されることはなかったですし、
兎に角、秋葉原の他の場所に比べて格段に居心地が良かったのは間違いありません。
というか、追い出されるほどの客もいなかったという話ですけど。

そんな自分達の時間を作れる空間だからこそ生まれたドラマが沢山ありました。
喫茶東洋で生まれた数々のドラマの中で、
一番衝撃(笑劇)的だったのは「酸っぱい生ビール」事件ですかね。
SSS氏が頼んだ生ビールがどう考えても酸っぱいという意見で一致し、
店員を呼んで「生ビールが酸っぱい」と申告したら、
店長が出てきて「申し訳ありません、生ビールはもう出せません」と
「もう出せません」ってどういうことだよ、という話で。

そこで先日、1月12日の喫茶東洋の最終日、
別れを惜しむメンバーを集めて東洋へ行ってきました。
勿論、一番の想い出である生ビールを飲みに。
しかし生ビールはメニューにすら書いてありませんでした。
どうやらSSS氏がメニューから外させてしまったようです。
多分、酸っぱいのはビールサーバが汚かっただけだと思いますが、
汚くなるほど回転しなかったんでしょうね、生ビール。

この日は我々の他にも東洋との別れを惜しむ方達で満席でした。
ビデオカメラで店内の様子を撮影する客もいました。
そこまで愛されていたんだなあ、と改めて実感。
夫々の客に沢山のドラマが生まれた、そんな素敵な場所だったんですね。
そして、満席でもやっぱり追い出されませんでした。
どんな状況でも東洋は東洋のままであること、これも永年愛された秘訣なのでしょう。
それらを肌で感じたとき、やっぱり少し寂しくなりました。

しかしながら、終わりがあれば始まりもあるのが世の理。
喫茶東洋に代わって新たなドラマを生み出す空間が生まれることでしょう。
我々はまたその中で馬鹿やっていきたいと思います。

最後になりましたが、東洋の店長様、お疲れ様でした。
秋葉原に喫茶東洋があったこと、我々はいつまでも忘れません。


<BGM>
CROSSFIRE (Apocalypse/ T.Hari)
[ APOCALYPSE ORIGINAL SOUND TRACK / Tactics ]